2019大晦日、お土産に寄せて

中野名産店で入手した「小さな蛸壷」

熱海のお土産屋「中野名産店」がこの大晦日、今年いっぱいでお店を閉めたそうです。お店の歴史は85年になるとのこと。以前立ち寄らせていただいただいた際に、小さな蛸壷、小さな三度笠と草履の飾り物、陶器でできたカップルの置物を購入させていただきました。

熱海と横浜を主な拠点に各地に赴いて、その場所で買った、その場所らしい、その場所にしか無い、何に使うのだかよくわからない置物などを集めています。いわゆるお土産ですね。

どこに行っても母体は同じで書いてある地名だけが違うだけのものもあれば、記念メダルのようなものもあり、その場所で手作りされたオリジナリティあふれるものもあります。これらは、人生にとって無くても良いものなものかもしれません。しかし、数百円のそれが、人生を豊かにしてくれることもあります。

中野名産店で入手した「三度笠と草履の飾りもの」

徹底的にそういった、生きていくために必要なもの以外を削ぎ落とした時期もありました。特にデッサンをしていた時期はそうです。どちらにせよ、その尊重の仕方のベクトルの違いというだけで、根本のところは同じ命題な気はしています。

12月22日で、横浜の他に熱海でも生活をはじめて一年がたちました。せっかく大晦日なので一年を振り返ってみます。

人間の生活の基本として、衣食住とよく言うものですが、「住」の重要性をより実感した一年だったと思います。

「食」については、僕にとって、ここ数年実感をともなった一つのテーマでありました。というのも、2018年の1月に大腸の病気をして、1ヶ月ほど入院生活をしていました。その間の2週間ほど、治療のために水の一滴に至るまでの飲食の一切を禁止することとなり、実際に大腸から虫垂、小腸までの15cmを切除しました。経験したことのない痛みや、食べるということの有り難さの実感を経て、内臓の感覚、自分の内とされる気管の感覚に鋭敏になった気がしています。その後味覚が変わったのか、30年間苦手だった、生クリームや餡子などの「甘いもの」を美味しくいただけるようになりました。また、味覚が敏感になった実感があり、味の記憶力が発達した気がしています。

「衣」については、洋裁の専門学校をでていた母の影響か、十代の頃からテレビや雑誌でパリコレクションを見るのを楽しみにしていました。高校生の当時はジョン・ガリアーノのディオール がお気に入りで、ヨウジヤマモトの良さが理解できないでいましたが、大学生になると、ヨウジヤマモトをある時理解できるようになり、取り憑かれると言っていいぐらいの影響を受けました。今は、紳士服を好んで着ています。一見、ヨウジを好んでいた頃の選択とは矛盾を孕んでいるように見えるかもしれませんが、ヨウジヤマモトのようにテーラードの「制度」に逆らうのも、テーラードが実際よく出来ているという、尊重があってこそで、そのベクトルが違う方向に表出されているという理解を、今の自分に対してはしています。

そういった背景もあり、人生がもし二度あることなのならば、自分は料理人かファッションデザイナーになって、内からか、時代の皮膚感覚からか変えてやるんだ!という夢想をすることもありますが、唯一実感を伴ってなかったのが「住」についてでした。

それが急速な実感を伴ったことは、恐らく、自分で選んだ場所に自ら住むということが初めてだったからかもしれません。福島県郡山市は、自分が生まれた場所でした。福島県の猪苗代には祖父母の別荘と山小屋があり、休日は山で過ごす。時には渓流へ岩魚を釣りに出かけ、テントで数日という生活です。これは自分からすると、自分が生まれる前にそこにあった環境でした。もちろんこの影響は計り知れないほど大きく、そして大切なものです。

大学に進学するとなって、その自分にとって大きな存在の「山」を条件の第一に考え、長野県松本市へ。大学院に行くにあたり変化の時と捉え、海も経験してみるかと神奈川県横浜市へ。それぞれにやはりかなりの影響がありました。

しかし、そこで生活するための箱は、一時のもの、雨風を凌げれば良いぐらいの感覚でいました。それでは今、どういう風に、どんなんところで生きていたいか。仕事はもっとしたい、もっともっと自分の世界を広げたい。そして積み上げたい。そして、釣りをして、色んな魚を釣って、絵を描いて、調律の狂ったピアノを弾いて生きていられたら、最高だな…都会から近く、田舎にもでれる、ちょうどいい場所。海から渓流までの距離が近く、魚種が多様な場所。そうして色々考えて、長期に渡る滞在を経て、熱海に住むことにしました。

そうして住みはじめた熱海では、実際問題が多く…一番は、住居の問題でした。幸運なことに今年の10月、良い方々のお力添えがあり、住みはじめた熱海から熱海内へとさらに引っ越すことで、その問題が解決されました。その問題の影響はかなり大きく、「住」ということについて、考える一年となり、生まれ変わったら建築・不動産関係、という夢想も追加されました。

中野名産店で入手した「陶器のカップルの置物」

実の所、自分の人生、生まれ変わりたくは無いのですが…!なぜかというと、身の周りを見渡してみると、なんだかんだデザインされてないものはありません。それが怖い側面もありますが、ただそれだけで、だからこそ、この仕事の意義が見えてくるようです。

自分の人生、誰かにデザインされてたまるものか、と思いますが、誰かが生きていく上で少し何かが上積みされる、そんなものづくりができたら最高だなと思います。